■学習資料(06年7月)
●事業認定取消訴訟 第1〜第6準備書面要旨
『準備書面の要約』をご活用ください
土地収用申請却下を実現する会・事務局
静岡空港事業認定取消訴訟は、ほぼ主要な主張を終わり、被告(国)の反論を待って、さらに国・
県の誤りを明確にしていくという段階に入りました。今後、証人尋問の実現や重要な証拠を提出さ
せるなどのいくつかの山場が予想されます。
一方、収用委員会審理はいよいよ権利者の意見陳述に入ります。多数の権利者の多様な意見
によって収用委員と世論を揺り動かす必要がありますが、あらたまって発言するとなると、テーマや
論の組立に迷うという向きもあります。また近く、空港周辺部の収用に対する意見書の提出も必要
になります。そこで、準備書面を要約して、静岡空港の問題点や論拠のための参考にしていただき、
ぜひご活用のほどお願いいたします。
<主な内容>
■第1準備書面
1、静岡空港の本質 /用地選定・設置許可申請における住民不在 /知事「確約書」問題/
住民投票問題と世論 2、社会資本整備審議会をめぐる認定判断の誤り
■第2準備書面
県の需要予測の不合理さの数々ー費用便益比1.0のためのつじつま合わせ /データの不必要な
「補正」 /運賃、アクセス、空港選択に関する都合のいい条件設定 /運営会社問題
■第3準備書面
被告側のムササビ確認に関する矛盾 /「種の保存法」について /信頼できない「環境影響評価書」
/オオタカ保護策の誤り
■第4準備書面
土地収用法第20条2号(事業遂行の充分な意思と能力)の形式的な解釈を排す/県財政の借金体質
/財政運営上に必要な能力の欠如とその実例/補助金と開港スケジュールの行方/開港後の収支
バランスの危うさ/誇大宣伝や工事落札
■第5準備書面
同20条2号要件の欠如に見る「意思と態力」の欠如を行政能力の面からえぐるー*民主性の欠如(同
意取得の約束を放棄・円卓会議提案を拒否・説明責任の放棄) *計画性の欠如(建設費の膨張・開
港延期・疑似民営化) *政治道義に背く権力的姿勢(住民投票拒否・「確約書」の反古・誠意のない
交渉・世論、マスコミ論調の無視)
■第6準備書面
「生物多様性条約」を守る義務 /多様な生物の宝庫の破壊 /環境影響調査のズサンさ
静岡空港事業認定取消訴訟・準備書面の要約
(静岡空港土地収用訴訟原告団)
■第1準備書面 2006・1・10
第1 本件訴訟に至るまでの経緯
1 そもそも静岡空港建設計画は何であったのか?
(1)この建設計画は、リゾート法が誕生した1987(昭和62)年に始まり、バブル経済がはじける1990年以
降も夢を追い求めるかのごとく続いていく。
(2)計画は、「民間空港開設研究会」に始まり、民間の総意から盛りあがったという被告側の陳述とは違
い、計画の発火点は一部経済界とそれにつながる土建国家的政治勢力の利権であった(空港は斎藤滋
与史知事の選挙公約にはなかった)。
2 地元住民の参加なきまま政治力学で決定された建設用地の選定
(1)現在ではわが国でも市道1本造るにも計画段階で地域住民に説明し、同意を得た上で計画は決定
される。また1994年、運輸省航空局は「成田」の教訓を踏まえ、「空港と地域との共生に関する基本的な
考え方について」を打ち出した。
(2)空港は、地元住民にとっていわゆる迷惑施設の最たるものである。吉田町神戸は空路直下で予定地
に最も近く、航空機公害が最大に集中する。しかし、立地選定の前後を通して知事はおろか県職員、県議、
立地選定にかかる空港建設検討専門委員等の誰一人といえども訪れることはなかった。
(3)起業者(以下、県)は、代議制民主主義による決定だけで足りるとするなら、住民は泣き寝入りを強い
られることになるという基本的原理を理解していないのである。
(4)前記「空港建設検討専門委員会」が1987年6月に第1回が開かれ、7月には14地域が5地域に、9月に
は更に3地域に絞られていき、12月には大方の予想に反して島田・榛原地域と決定された。
朝日新聞は、当時の加藤・島田市長が「青天の霹靂だ」と驚き、大石・榛原町長も半信半疑だったこと、そ
して結果は自民党県議同士の政治的駆け引き・利権がらみの力学のみで決まったことを報じている
(1991・10・8)。
3 用地取得の確実性がないままなされた空港設置許可申請
(1)航空法39条1項5号は「飛行場の敷地について…確実に取得すると認められること」を設置許可の要件
の一つとしている。
(2)原告島野氏は1994年、航空局飛行場部計画課長と面談し、石川知事が「本体部分の地権者の限りな
く100%に近い同意が必要である」旨繰り返し表明しているが、「限りなく100%」の意味は何かと質問し、そ
れは「事実上の100%である」ことを確認している。
(3)同意の取り付けは困難を極め、県は設置許可申請を再三にわたって延期せざるをえなかった。
しかし、1995年12月、「共有地権者を除く95%以上の同意率」(県見解)をもって申請に踏み切った。この
同意率は地方空港設置許可申請において過去最低である。ここで重要なのは、障害切り土部分の所有者
を含む54名が運輸大臣と県に対し「用地の不提供に関する通知」を送っている点である。それを知りながら
知事は申請に及んだのである。95・12・20の産経新聞は、「知事は共有地権者を従来の地権者と同等に扱っ
ていると記者会見で述べながら、共有地権者を含めると同意率は80%を下回ることに言及しなかった。『地
元理解』という最大のハードルを越えぬままの“駆け込み申請”」だと報じている。
4 知事「確約書」による強引な設置許可処分の取得
(1)申請後、用地取得は遅々として進まず、県民の総意からかけ離れた空港建設計画に対する反対運動
はますます活発化していった。
(2)こうした中で「用地取得の確実性」要件を何とかクリアしようとした苦肉の策が1996(平成8) 年7月22日
の運輸大臣あて「確約書」であった。「‥‥‥昨年12月19日の設置許可申請以降も、残された未同意地権
者全員の同意を得るべく最大限の努力を重ねて参りましたが、誠に遺憾ながら6世帯の地権者及び共有地
権者につきましては、現時点において同意を得るに至っておりません。
しかしながら…設置許可が得られることにより話し合いの進展が期待されるものであり、また、空港建設に
向けて静岡県、地元市町村及び地域が一体となって取り組むことにより、同意取得が可能となるものと確信
しております。/設置許可を得た後も、貴重な土地を提供していただく未同意地権者に十分配慮しつつ、引き
続き諸対策を進める中で誠心誠意交渉に当たること等により、県の責任において最終的には全ての用地を
取得してまいることを確約いたします」。
この「確約書」を提出してからわずか4日後に設置許可処分が出た。この経緯から明らかなことは、“成田
の二の舞”に略ることを強く警戒した運輸省は、県に対して交渉による任意の用地取得が確
実であることの
保証を求め、それも口頭の約束では不充分として、文書による「確約」を要求し、この文書をもって設置許可
要件充足を認定する重要な根拠としたのである。換言すれば「確約書」の提出がなければ、本件空港設置
許可はあり得なかった。当時の新聞報道によってもこの点は疑う余地はない。
(読売1966・7・26、静岡7・29、毎日7・16)。
以上の如く、「確約」の不履行の方が「確実」になったからには、空港設置許可処分に違法があったことと
なり、本来それは取り消される代物である。
(3)加えて、他の行政実例と比較しても、本件許可処分の異例さが頼著である。山形県庄内空港の場合は、
86名の未同意者を残して昭和62年3月に設置許可申請をしたものの、同年6月に和解にこぎつけた後、設
置許可処分がなされた。中部国際空港の場合は、国は平成11年8月に設置許可申請を受理したものの、翌
年4月愛知県及び三重県の関係漁協との合意成立を待ってから設置許可処分を行っている。
(4)ところで、本件原告らが提訴した静岡空港設置許可処分取消訴訟において、運輸大臣は「仮に知事確
約書による地権者全員の同意が得られなかった場合でも、土地収用法の適用も可能だから、用地確実取得
要件は充たされる」旨主張した。
しかし、飛行場、河川、道路、ダム、港湾、鉄道などおよそ公共用地は全て土地収用法(3条)の適用対象
となるにもかかわらず、飛行場についてのみ「用地取得の確実性」が事業認定要件となっている。土地収用
制度の存在を根拠とするならば、どんな空港建設にも「用地取得の確実性」が始めから存在することとなり、
航空法にわざわざそれを規定する意義はない。
また運輸大臣の主張は、成田空港問題を契機として空港建設事業に土地収用法の発動を求めないとする
方針変更にも反している。よって、静岡空港において土地収用法の発動の余地は全くないというべきである。
(5)しかし、前記取消訴訟で裁判所は「被告が設置許可要件を充足すると判断したことについては、100%に
近い地権者の同意が得られていなかった点、任意取得の確実性に対するやや楽観的な見通しを一応認識す
べき状況にあった点、他の同種参考事例に重きを置かなかったのではないかと考えられる点等に問題が全く
ない訳ではないが、土地収用法の可能性のほか…静岡県知事の確約書による任意取得に対する決意の強
固さ等諸般の事情を総合すると、その判断が明らかに裁量を逸脱濫用したものと認めることは出来ず……」と
のまことに苦しい理由付けで、結局のところ行政追従的判決を下し(平成12年1月22日)、上級審もこれを追認
してしまった。
だが、本件事業は「誠心誠意の交渉による全用地の取得」の履行、達成を見込んだ、いわば条件付き許可
処分の上に成立している。今やその条件の不履行、未達成が明白となったのであるから、設置許可自体がそ
の正当性の前提条件を欠き、ましてや本件事業認定は速やかに取り消されなければならない。
5 知事選公約の住民投票を実施せず
(1)2000(平成12)年10月、本件空港建設がそもそもの必要性を始めとして多くの面にわたって重大な問題を
抱えているにもかかわらず、県民の合意が成立していないまま強引に推進されつつあることに対し、様々な疑
念を持つ個人・団体が「大事なことはみんなで決めよう」の一点で結集し、「静岡空港・住民投票の会」を結成
した。
2001年3月7日から5月7日までの2カ月間に住民投票直接請求に必要な県内有権者数の50分の1(約6万人)
を大きく上回る29万2487人(有効署名は26万9731人)の署名を集めた。
(2)これに対し、石川知事は3月16日の記者会見で住民投票の実施に否定的な姿勢を強く打ち出した。ところ
が署名数が上昇を続けるのを見た知事は、5月14日の記者会見で「県民意識が高まっているのを痛感してい
る」と発言、さらに4日後の臨時記者会見で「県民の意思を十二分に尊重する立場から、実施することに賛意を
表します。住民投票によってどちらか決まるとすれば、それに従う」と表明。かつ、それが選挙対策であることは
否定した。
(3)ここで重要なことは、知事のこの表明によって空港の是非は知事選の争点からはずれ、空港反対の票が
石川知事に流れる結果となった点である(読売新聞、NHKの世論調査)。
(4)その後9月12日、静岡県議会は住民投票条例案を否決した。読売新聞調査によれば、県民有権者の73%
が住民投票の実施に賛成していた。この条例案否決とこれを傍観し、座視した石川知事の公約違反というべき
態度に県民もマスコミ論調も強く反発し、批判が集中したのは当然である。自民党は、条例案否決の理由を、
本件事業に既に多額の予算が投入されていることや、「空港の採算性などについて誤った情報」が蔓延してい
ること等を挙げたが、これらは事実に反するか、あるいは住民投票の趣旨からみて理由にならない。真の理由
は、住民投票を実施すれば建設中止が必至であったことである。
(5)なお、条例案の否決後、知事は「静岡空港専門家委員会」を設置して、空港に関するデータを検証させた、
「御用委員」のみを集めた「専門家委員会」は空港建設を前提としたものであり、わずか2か月で「建設は妥当」
との結論を出した。
(6)2000年10月20日に発表された朝日新聞による県民世論調査の結果によれば、空港「不必要」は46%に対
し「必要」は42%にとどまった。2001年7月(知事選直前)の中日新聞世論調査では「反対」54%、「賛成」34%、
同じく読売新聞によれば有権者の48%が「反対」、「賛成」は26%にとどまった。NHKでは「反対」「どちらかとい
えば反対」合わせて53%であった。
これらの調査は事業推進の既成事実に左右されない本来の県民の意思をよく示しているばかりでなく、空港
事業の問題点を的確に提示した上で行われたならば、反対はさらに多くなっていたものと考えられる(知事の
お膝元である県庁職員ですらほとんど事業を評価していない)。
本件事業の非民主性、ここに極まれりである。
第2 本件事業認定判断過程の透明性
1 本件原告が公聴会で「確約書」についてのべたこと
(1)被告は社会資本整備審議会に対し、平成17年6月1日、静岡空港整備事業について意見を承りたいとして
付議をおこなった。同審議会は同月30日事業認定にゴーサインを発した。その判断過程と結論は全く理解でき
ない。
(2)平成13年の中央省庁改革の一環として、審議会の尊重義務を定めた諸規定が一斉に削除された中で、社
整審の意見尊重義務が追加された意味は重要で、同審議会の責任は重い。
(3)そこで、平成17年2月19日に行われた公聴会で、原告島野氏は、知事「確約書」は用地の同意取得を約束
したものであり、国はこれを設置許可の根拠にしたことを詳細に指摘した自身の意見書を国交省は是非読んで
ほしいと訴えた。
2 本件事業認定処分までの行政過程
被告は求釈明で「確約書に関する主張は土地収用法のどの条項に該当するのか」と釈明を求めているが、
「確約書」提出4日後の設置許可との間に著しい不透明な関係があれば、事業認定処分は違法性を帯びるの
である。
3 収用法22条に基づく専門的学識経験者の意見を求めることは、任意規定に基づくものである。
(1)法22条は「…意見を求めることができる」と定めており、7名が事業認定に肯定的な回答を寄せているが、
それは任意規定に基づくものであるにすぎない。
(2)片や、社整審の意見尊重は強行規定である。
(3)土地収用法改正案の趣旨説明に際し、扇国交大臣は、第三者機関(社整審)の意見聴取、事業認定の理
由の公表によって判断の過程が透明になる旨を述べた。
(4)ところが、開示された社整審議事録は、会議の冒頭と終わりの挨拶以外の何も見えない。国交省と静岡県
とが談合的な馴れ合いでこの空港を設置しようとした目的のために、被告は不都合なところについては頬被りし
てしまうのである。認定庁が徴した「確約書」を守らない起業者に対し本件事業を認定したことは禁反言(自分の
言動が表明された以上は後になってそれに反する行動や主張は許されないとする原則)的で、適正な行政手続
きに違反している。
■第2準備書面 2006・3・13
主として需要予測について
1 はじめに
2000年11月、会計検査院が1999年度の旅客需要が19空港中9空港で予測を下回っている(うち4空港は予
測の50%にも満たない)ことを指摘した。2001年5月には総務省が需要予測の方法の改善を勧告した。
2 公益性と費用便益比
費用便益分析とは、費用のトータルを分母に置き、金銭的便益と時間短縮効果・事故減少効果などの非金
銭的便益のトータルを分子に置いて得られた数値が「1.0」を超えれば便益あり、とするものである。
土地収用は憲法で保障された個人の所有権を奪う以上、「高度の公益性」が求められ、便益がより大きくな
くてはならない。しかし、本件空港事業は費用便益比が1.0を割り込むと予想されるのである。
3 静岡空港における需要予測の合理性の欠如
(1)需要予測は費用便益比の前提となる。県は、事業再評価委員会の質疑で、費用便益比は年間86万人
がその均衡点(1.0)であることを明らかにした。しかし、「航空連合」は国内外合わせて43万人、「静岡空港建設・
中止の会」は36万人に過ぎないと試算した。また、大型機就航に必要な2500m滑走路の根拠ともなり、かつ最
も高額の着陸料を見込んでいる札幌便の需要予測50万人は、羽田や中部国際空港より安価な運賃を設定す
るなど不合理があり、実は14万人程度に過ぎないとの試算もある。国交省中部地方整備局の事業認定の理
由はおよそ3分の1がこの需要予測の妥当性の弁明に費やされている。
(2)被告が妥当と判断した静岡県の需要予測は、開港年で国内線106万人(札幌便50万人、福岡便24万
人、鹿児島便17万人、那覇便15万人)。「平成13年度航空需要予測手法に関する調査報告書」で示された「機
材投入基準に基づく路線需要毎の機材別便数」によれば、2500m滑走路を必要とする大型機投入が合理性を
持つ路線需要は年間50万人以上となっている。
このことから県は、@札幌便で50万人、A収支均衡のおよその目安として県民に明らかにしていた100万人
−を超えるようにするため、恣意的に不合理な前提条件となる数値データを採用したものである。
(3)以下、その不合理な前提条件について検討する。
@ 県は2000年度の全国航空旅客流動量データを「補正」と称して大幅に改めた(静岡県から全国への移動
を876.3千人から1263.6千人になど)。
A @の中で北海道へは2倍超増加させた一方で、沖縄へは41%減少させるという矛盾を冒している。
B 被告は補正を認めた理由を、2000年度の航空旅客データの基となる1999年(10月)の実施日に静岡県全
域が激しい風雨に見舞われ、県中東部で鉄道の運転を見合わせるなどにより旅客量が例年と、また全国の数
値と比べて著しく低くなったから、その特異値を補正する必要があったとしている。
しかし、全国的な航空需要は、空港の新設、滑走路の増設等によって伸びることがある。それと静岡県の増
減の傾向が等しいとすることは無理がある。静岡県発着の需要は1995年をピークにして横ばいか減少してい
るのである。
C「全国航空旅客流動量」とは、秋期の1日における旅客の動きをアンケート調査によってまとめた集計値(動
態調査)を基にした、静岡県と全国各地との間の旅客数である。
2000年の補正前の静岡県発着の航空旅客流動量は876.3千人であり、これは1995年の962.2千人に対して
約8.9%減に相当する。そこで、1995年動態調査値2139人にこの減少値を乗じて2000年度動態調査値を算出
すれば、1948人(2139×876.3/962.2)となり、これは補正を要するような過小なデータとは言い難い。このこと
は、補正後(1263,6千人)の場合を同様に計算してみればいっそう明らかである。
(2139×1263.6/962.2)=2809(人)。翌年の静岡県発着値2072人に比べて、かかる補正がいかに突出した
データを導き出したかがわかる。
加えて、風雨による在来線の一部運休、東名高速道路の集中工事が航空移動を前提とする長距離移動断
念に結びつくほどの影響を与えたという主張の根拠はないのである。
D県は、需要予測の前提となる航空旅客データについて、羽田及び名古屋空港の利用圏域として12都県を設
定し、その圏域については2000年度の航空旅客流動量調査の合計値を1995年度のそれと梼成比で配分する
ことにより補正している。静岡県における構成比とは、12都県を100%としたうちの2.1345%をいい、2000年度12
都県発着の航空旅客流動量合計にこの構成比を乗じて、上記Cの1263.6千人を静岡県分として配分したもので
ある。
E上記の補正の方法は、圏域の1995年度から2000年度への伸び率(31.32%)が静岡県における伸び率と等
しいとの仮定のもとに行われた。しかし、圏域内の各県の伸び率は一様ではない。
しかも全体に対する東京都の影響が大きい。このような現実の中で、8%減という静岡県の伸び率を補正する
必要があるのか疑問であり、伸び率の一様性という俊定による方法といい、静岡県が全国平均(25%)以上の
伸びがあることの説明が示されていないことといい、不合理である。
F県は、2000年度の静岡県発着の補正値1263.6千人を目的県別に配分しているが、北海道との間に補正前
の26.2%から38.5%に増加させている。
G県は理由として、前記の強い風雨による交通困難を挙げているが、北海道便だけに影響を与えたとは考えら
れない。構成比(配分)を38.5%という高率に補正した手法、結果妥当性の検証に甚だしい過誤が認められる。
(4) 需要予測の前提条件設定の不合理性
@ 航空運賃設定について
*新千歳便往復割引運賃 静岡23,900円/ 羽田24,200円/ 中部国際28,400円
需要予測等検討委員会の交通工学専門家2人が入っているワーキンググループは、静岡空港が最も安価な
運賃になるという不合理を見過ごした。
*静岡空港就航路線の片道通常運賃は、羽田、名古屋における同路線の運賃設定を基に距離按分により算
出した。往復割引運賃は、類似空港とみなした仙台、小松、福島、新潟における往復割引率の4空港平均を片
道通常運賃に掛けて算出した。
*航空運賃は必ずしも距離に比例して設定されるものではない。静岡一新千歳を距離のみによって28,200円
(片道通常)としたことは軽率にすぎる。割引率では片道通常運賃の根拠とした隣接空港ではなく、類似空港な
る槻念を新たに持ちだしたことから推察すれば、割引運賃の基となる片道通常運賃を低くしようとした恣意的な
意図があったとの疑念を払拭できない。そもそも高需要、高効率の羽田、名古屋における運賃設定能力と、地
方空港とを同等と仮定することに合理性はない。この問題点は需要予測発表当時から指摘されていながら県は
再計算せず、国も羽田、名古屋での割引率平均での試算指導という意味のない注意でごまかした。その姿勢は、
片道通常運賃設定の不合理性が需要予測に大きく影響する一要因であることを示唆している。
また、「類似空港」の平均割引率を割引運賃に用いたが、需要の少ない地方空港が往き帰りの利用を確保す
るために割引率を高くするのは容易に想像できることで、その結果静岡空港の往復割引が羽田空港より安価に
なるという不合理を国は黙認した。
A近隣空港へのアクセス条件設定等の不合理性
*羽田空港での乗換え・待ち時間を60分と設定したが、これは中部国際空港施設の温泉に入浴する時間を加
味するに等しく、便数の多い羽田ではむしろ乗換え時間を他空港より短く設定すべきである。ちなみに市販の
『乗換案内』では、2005年12月1日10時品川発・新千歳行きで羽田乗換・待ち時間35分である。
*品川一羽田空港への移動時間を28分と設定しているが、実際は15分と20分の直行便が半々である。
*新幹線利用の設定にあたって「ひかり」よりも「こだま」の本数が2倍近く多いことから、「こだま」のみの所要
時間を需要予測に用いている。現実に存在している「ひかり」を存在していないものとして、競合空港のアクセ
ス条件として設定するという前提はあまりにも不合理である。
*羽田空港への自動車アクセスを考慮していない。県は、三島一羽田が339分もかかるから利用が見込まれ
ないとするが、もっと一般的な経路を使えば2時間以上短縮出来る。需要予測にあたって静岡空港利用想定
圏域には神奈川県や山梨県も含まれていることから、自動車アクセスを無視する理由は見当たらない。
*中部国際空港への自動車アクセスにおいても、わざわざ不便となる経路を想定して、静岡空港に有利なア
クセス条件を設定した。
*近隣空港の便数を「公共交通機関を利用して前泊・後泊なく利用可能である便を対象とし、新幹線を乗り継
ぐ場合は、同じ列車から乗り継ぎとなる便を統合して1便と数える」との制約を設け、本来46便ある羽田一札幌
便について22便(あるいは18便)で評価するという需要予測の前提条件設定を行った。総務省の勧告も、需要
予測に便数の格差を十分に配慮するように述べているが、始めに結果ありきの条件設定が行われたことは、
札幌便が便数格差考慮前も考慮後も同じく50万人であることから明らかである。
*静岡空港へのアクセスの手段として自家用車の使用を県内・県外の区別なく想定している。県は、「他県か
らの来訪者に対してもレンタカーや送迎車が考えられる」との理由を示したが、およそ一般的でない送迎車を根
拠としたり、「燃料のみ負担のレンタカー」想定したりするのは不合理である。これを監修した需要予測検討委員
会における専門家の適性にも問題があることを証明している。
*札幌便における空港選択率を、○豊橋から一静岡空港40%、中部国際空港60% ○静岡市から一静岡94
%、羽田6% ○浜松市から一静岡91%、中部9% ○三島市から一静岡58%、羽田48%、とする。「静岡空港
建設・中止の会」の街頭アンケートでは、静岡市における静岡空港選択率は10.2%(羽田60.5%、中部23.7%)
であった。
しかも、空港選択率にとって重要な要因である運航時刻について、日航ジャパン副社長は公聴会において
「福岡への路線を張るといたしますと、羽田ないし伊丹から一旦福岡へ飛ばしまして、その後静岡空港へ回す
という具合になります。そうしますと静岡への到着と出発が昼ごろの時刻になる可能性が高く、ビジネスマンあ
るいは観光客のお客様にも必ずしも使い勝手のよくないダイヤになります」との見解を示した。
*札幌(新千歳)便50万人の予測について。地方空港では札幌便が50万人を超す空港はない。広島空港で
も26万人、小松空港は27万人である。さらにこれを福岡便の需要と比較すると、静岡空港の札幌便は福岡便
の208%!『数字で見る航空2002』『同2005』(国交省航空局監修)によると、両者の比率は例えば羽田、名
古屋、松本、いずれも静岡空港の半分程度にすぎない。このことからも静岡空港における札幌便の需要予測
は異常である。
*羽田、中部、伊丹といった大規模空港と結ぶ路線が皆無であることに対し、国は、日航ジャパンとの具体性
を欠く協議結果に基づいて「航空会社による路線展開と本空港の利便性向上のための方策の講じられる可能
性が高い」としているが、羽田や伊丹に路線が引けない事実は将来とも変わらない。国内航空路線利用者のう
ち東京便及び大阪便を合わせたものが82%を占めると言われている(杉浦一機『空港ウォーズ』)のである。
*「静岡空港建設・中止の会」は2004年、県に対し需要予測の根拠になる全てのデータの公表を要求した。し
かし、県は口頭で「これらのデータを委託先で既に『消去した』と回答し、公開を拒んだ。ところが2005年5月13
日付けで国交省中部地方整備局が県に需要予測の再試算を求めたことに対し、再試算を行った。これはデー
タの隠蔽の事実を示している。
*静岡空港運営会社について 最新の需要予測の手法を用いて費用便益比が「2.03」という神戸空港も、
予測の半分程度しか収入しか見込めないという現実がある。まして需要予測に不合理の多い静岡空港におい
ては、疑問はなおさらである。
現に県は、空港運営会社において県の見込む「空港基本施設の管理だけで年間1億5千万円の黒字」とは
異なった収支見通しがあることを認識している。さらに航空会社の就航を促すために、主要な収入源である着
陸料を羽田や中部より安くする意向を、着陸料の設定権を持つはずの運営会社設立以前にマスコミを通して表
明している。この低額設定の公言は運営会社の収支の悪化に県が責任を持たなければならない危険な行為
であり、県民一般の利益=公益性を害する行為と言い得る。
さらに2005年5月30日、日航ジャパンの就航と引き替えの収支均衡保証をはじめ、搭乗率保証(一定の搭乗
率に達しない場合、差額を穴埋めする)という「支援策」に前向きである旨表明した。
**上記のような現実的な前提条件を考慮して合理的な需要予測を行えば、予測値は86万人を下回り、費
用便益比が「1.0」を下回ることが十分予測される。加えて、神戸空港さえ大型機が就航しない新千歳便に関し
て、静岡空港のそれはより難しく、したがって2500m級の空港整備を必要とする根拠はなくなる。よって本件事
業認定は、裁量方法ないし過程に重大かつ明白な瑕疵があったものとして、土地収用法第20条3号及び4号
の要件を欠く違法なものというべきである。
●土地収用法第20条 (事業の認定の要件)
2号 起業者が当該事業を遂行する充分な意思と能力を有する者であること。
3号 事業計画が土地の適正且つ合理的な利用に寄与するものであること。
4号 土地を収用し、又は使用する企益上の必要があるものであること。
■第3準備書面 (2006・3・13)
第1 貴重種等の動植物の保護(失われた利益)
被告認定庁はムササビについて「生息が確認された動物で、新たに県版レッドデータブックで準絶滅危惧種と
されている」と述べているが、一方で静岡空港滑走路の南西に沿って存在する「石雲院の森」でムササビを確
認したという静岡県の文書を書証として提出している。
ムササビの生息は、公共事業の適否を基本的に左右するほど重大な事実である。被告は「生物の多様性
に関する条約」や「絶滅のおそれのある野生動物の種の保存に関する法律」(種の保存法)を無視している。
第2 「生物の多様性に関する条約」と「種の保存法」
1993(平成5)年12月に我が国は同条約を締結している。「種の保存法」(同年4月制定)は「野生動物が生
態系の重要な構成要素であるだけでなく、自然環境の重要な一部として人類の豊かな生活に欠かすことの
できないものであることにかんがみ、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存を図ることにより良好な自
然環境を保全し、もって現在及び将来の国民の健康で文化的な生活に寄与することを目的とする」(第1条)
と定め、地方公共団体に保全のための責務を負わせている。
生息地の破壊や環境の悪化を招く行為は、第9条で禁じている「捕獲・殺傷・損傷」と同様に評価されるべ
きである。
それは「絶滅のおそれ」の意味を定めた第4条からも明らかである。例えばオオタカの生息する森林を皆伐
すれば、オオタカは餌が十分でなくなって死亡したり、そこまで至らなくても繁殖ができなくなってトキのように
絶滅することは十分にあり得る。
「生物多様性条約」は、種の多様性とあわせて生態系の多様性の保全を締約国の義務とする。
生息地・生育地の保全なくして種の保全もあり得ないとしているのである。「種の保存法」が生息地・生育地
の破壊に対して禁止規定を設けていない、などというのは同法を有名無実にしてしまう、誤った解釈である。
(「生物多様性条約」については第6準備書面で詳述)。
第3 静岡空港整備事業に係る環境影響評価書について
*同評価書は、タコノアシについて「養勝寺池流入部の湿地で1株のみ確認された」と記しているが、実は多
数株が生育している。事業に必要だとの価値判断が先にあって、その後に環境影響評価をするから信頼す
るに足りない評価書がまかり通ってしまうのである。そこには事業計画の変更のような選択肢は全く存在し
ない。
*この空港計画区域と事業区域は、1976年に当時の環境庁が行った、いわゆるみどりの国勢調査によれば、
自然度は5ないし9とされている。原告らがNPO団体とともに調査したところでも、自然度は4から9までであっ
た。貴重な自然はこの計画によって完全に失われるのである。
第4 オオタカの保護
*「環境影響評価書」にはオオタカについて「非繁殖期には採餌環境の53.2%が改変され、採餌環境の減少
といった影響を受けると考えられる」と記載されている。要するに、地形改変区域内に採餌環境があると言っ
ているだけであり、「航空機の運航による騒音の影響については現段階では不明である」と、あえて正確な評
価を避けている。
*同評価書が作成された翌年の96年に、空港事業地内でオオタカの営巣が発見された。同年9月、県は「オ
オタカ保護対策検討委員会」を設置、99年12月に同委員会は提言をまとめた。それによると、事業区域内にA、
T、G、K、Tの5箇所を営巣地域とし、4つがいのオオタカの営巣環境を保全、整備していくが、T地域は空港
建設のため放棄する、としたのである。
*2000年12月、県は石雲院付近の山林内でオオタカの営巣木(3〜4年前に子育てが確認されたもの)2本を
切断した。これに対し全国紙も社説で愛知万博での愛知県のオオタカへの対応と比較して「理解できない」と
論じた。
2002年6月、第3回オオタカ保護連絡調整会議で「A地域での営巣行動なし」との報告がなされた。ところが
同年7月、従来の営巣地から尾根を越えて500m以上離れた営巣環境保全エリア外の場所で営巣・繁殖活動
が行われたことが明るみに出た。環境庁の定めた「猛禽類保護の進め方」にある開発行為等に際しての保
護方策の検討手順のマニュアルが守られていなかったためである。
ところが第4回同調整会議は、2000年10月から2カ月間で行動圏調査を行うと表明した。行動圏調査には2
繁殖期を含む1年半以上の期間が必要である。原告住民は環境省に県に対する指導を訴えた。県は「工事
工程上の改善」と「工事工程上の配慮」を行うことを報告したが、前記「猛禽類保護の進め方」によると、「工
事の配慮」とは「計画の変更、規模縮小、中止」で、「事業実行上の配慮」とは「工期、工法調整による騎音等
の対策、中断」である。しかし県によって「行動圏調査」「内部構造調査」とその「解析結果の分析」が行われ
ていない以上、「改善、配慮」といっても何をどうするのか判然とするはずがない。県は独自の「工事工程上
の…」などという紛らわしい概念を独断的に生み出したうえ、そのような概念を用いて一方的に工事に着手し
た。
*また同調整会議では、オオタカを「保全地域又は新営巣木近傍の適地への誘導を図る」とした。しかし、前
記の尾根を越えて島田市側に新たに営巣し始めたオオタカがA地域から移動したものか、誰も確認していな
い。にもかかわらず、県は「A地域からの移動が事実だとすれば」営巣は可能だとした。人工的にオオタカを誘
導した事例は国内においては皆無であったことは環境省も認めたところである。
第5 結び
被告は「適切な保全対策を講じている」としているが、「環境影響評価書」が信頼に足りないばかりか、ムサ
サビの例のように事実を誤認、県もオオタカ対策に見られるように事業遂行のためにその場を切り抜けること
のみに終始してきた。
本件事業認定は、事業が土地収用法20条3号の「土地の適正且つ合理的な利用」の要件に該当しないか
ら、取り消すべきである。
■第4準備書面(2006、5、25)
−財政面における起業者の「意思と能力」−
第1 土地収用法第20条2号について
*事業認定庁は「認定の理由」において、本件空港が運輸大臣から設置許可を受けていること等により事業
を施行する権能を有すること、法律上要求されている手続きを履践し、予算上の措置を講じ、空港整備に係る
組織・人員を確保していることをもって事業遂行について「充分な意思と能力」を有するという認定条件に適
合していると主張している。
*しかし、第20条2号要件をこれらの事項のみに限定することは不当である。事業が行き詰まったからといっ
て、用地・物件の強制取得まで許されるか否かは、通常の事業施行過程とは自ずから異なる特別な基準を
もって判断されるべきものである。そのためにこそ土地収用法は収用に係る手続きにおいて、一般の許認可
手続きとは異なる慎重な判断手続きを規定しているのである。
*そもそも県は、事業遂行に行き詰まって忌むべき強制力の行使をせざるを得ない状況に絶ったのであって、
これこそ県に公共事業を適切に遂行する能力が欠如していることを示している。認定庁や被告国が主張する
「意思と能力」の内容は「必要条件」を充たすものであっても、「十分条件」充たすものではない。
*「事業遂行の充分な意思と能力」の認定において検討されるべき事実は、単に事業施行に関する法的権
能、予算措置、人員、機構等の組織体制の具備にとどまらず、事業の達成のためには私有財産の強制取得
までやむを得ないと有権者多数が納得するだけの社会経済的な展望と視野に支えられた説得力、法的理念
に対する忠実性、充実した財政力、事業の精緻な計画力と着実な達成能力等を含むと考えなければならない。
新東京国際空港事件・東京地判昭和59,7,6は、「能力」とは事業を施行する法的、経済的、実際的(企業
的)能力を言うと判示している。
第2 静岡県の財政状況、空港の収支見込みと2号要件
2 静岡県財政の基本問題 (1「はじめに」は省略)
(1)国の景気浮揚策に乗った公共事業の乱発
1993年に就任した石川知事は、多くの無駄な公共事業を中止することができず、継続することになった。そ
のバブル型県政に拍車をかけたのが地方に借金を負わせて公共事業を進め、その借金については地方交付
税で後年度措置をするという国の景気浮揚策であった。その結果、1993年には7967億円にすぎなかった県
債残高は、3期日の終わりの2005年には1兆9432億円と約2.5倍になった。静岡空港を含む公共事業だけで
も総額5000億円を超え、3300億円を超える県債に達するのである。この事業のために1993年に存在した基
金1702億円は2005年の予算編成時には使用可能な額は55億円にまで落ち込むのである。
(2)財政の健全化の実体一公約を守れない実態
石川知事はようやく2000年に「財政緊急事態宣言」を行い、財政健全化計画を打ち出し次の3つの指標を
掲げた。
第1に、経常収支比率は90を超えない。
第2に、県債残高は2兆円を超えない。
第3に、起債制限比率は15%を超えない。
(経常収支比率とは財政横造の弾力性を判断する指標で、率の低いほどゆとりがある。起債制限比率は高い
と借金体質が進んでいることを示す)
しかし、2005年度の経常収支比率見込みは91.2で、県債残高は1兆9432億円、特例債を含めると2兆155
6億円、起債制限比率は11.9である。掲げた目標の2つを達成できないままに静岡空港事業を推進しているの
である。特に、経常収支比率については2010年までに予想される県財政中期見通しにおいても90をクリアでき
ないのである。
そしてこの財政難の中、沼津市住民6万人が署名した「住民投票によって事業の是非を決めるべきだとした
790億円の沼津駅高架県事業」を強行しようとしているのである。
この公共事業優先政策の結果は、他府県と比較しても高い公債費比率となって表れており、1600億円から
1700億円台の公債費支出が毎年続いている。一方で空港建設のための県債930億円は、2008年までに借り
終わることになるが、初期に借りた返済は10年目を迎え、30年償還に向けて2005年度の借り換え債39億300
0万円、2006年度14億500万円という形で始まっている。930億円の県債を30年で返済しようとすれば、毎年
平均31億円が元金返済として一般財源から支出されていくことになる。完成して後は採算がとれるかどうかと
いう単純な話にはならないのである。
(3) 三位一体改革と地方交付税の削減
国の地方交付税特別会計は既に53兆円もの借金を抱え、ついに2001年、不足する地方交付税分を半分は
国で半分は地方で負担することとし、地方に3年間の時限付きで国の「赤字国債」にあたる臨時財政対策費を
発行させ、それを地方交付税で後年度措置することにしたのである。
ところが、この措置は2004年度において更に3年延長となり、その2004年には突然の地方交付税の削減が
行われた結果、全国の自治体を大混乱に陥れた。国は自治体からの抗議により、2005年、2006年の2年間は
地方税と交付税の総額を一定額にすることにして混乱を避けようとしたが、折りしもこの2年間の地方税収の
伸びによって、結局自治体が本来収入として受け取るべき地方交付税分を受け取れないという事態を招いて
いる。
石川知事は、公共事業における起債の地方交付税による後年度措置分について「これは借金ではない」と
繰り返し説明してきた。ところが国の地方交付税総額抑制の方針が示されると、一応「強がり」の抗議姿勢を
見せはしたが、国の方針に従順に従って集中改革プランを策定し、職員の5年間の定員削減目標をはるかに
超える7.6%もの削減計画をたてたのである。本来ならバブル期の景気浮揚策に乗っかった静岡空港930億
円の県債に象徴される県債増大路線の責任を明らかにし、国・地方を含めた800兆とも1000兆とも言われる莫
大な累積赤字の解消に向けて、採算なき静岡空港は直ちに中止あるいは一旦棚上げをするのが財政運営上
の優先的な判断というべきである。
ここにおいても静岡県には、土地収用法第20条2号の「事業遂行に必要な充分な意思と能力」に欠けること
が明らかとなっている。
3 静岡空港予算と2006年度財政
静岡空港建設事業費は総額1900億円で、その約半分の930億円を借金(県債)で賄い、本体工事分490億
円の2分の1を国からの補助金に頼る。土工量では2600万立方メートルべ−スのところ2005年度末で2130万
立方メートルで82%の進捗率、事業費は1900億円べ−スのところ1541億円(81.1%)を消化し、残予算は35
9億円である。本体工事について言えば、工事費490億円べースのところ349億円(71.2)の進捗率で、残予算
は141億円、いまだに28.8%もの予算未執行分が残されている。
静岡県の2006年度予算で空港部予算は122億6537万余円で、人件費を除く事業分は本体工事分が47億7
000万円、静岡県単独分で63億8700万円、計111億5700万円となる。予算編制時における341億円の財源不
足との比較で言えば、単独事業としては、2006年度予算の中でも大きな位置を占めている大型公共事業であ
る。
この財源不足額341億円は、昨年の499億円より減少しているが、毎年毎年不足額が生じ、そのたびに緊縮
財政を強いられる財政事情は極めて深刻である。県はこの341億円の不足を基金を活用することでのりきった
が、静岡空港開港予定の2009年度は基金0状態になると予測されている。
財政状況の厳しさは、少子高齢化社会の到来と団塊の世代のリタイヤによって加速している。扶助費は05年
度572億円→09年度730億円になり、職員の退職金は05年度267億円→380億円というように義務的経費の
増大が予測されている時期に、そして公債費1600億円余の支出が継続されることがはっきりしているこの時
期に、静岡空港への残予算359億円の支出がいかに大きな負担であるか、わかろうというものである。石川知
事は06年当初予算に占める空港建設事業費の割合は1.0%にとどまり過大な金額ではないと述べるが、まと
もな判断とは思われない。ここに事業遂行に必要な「充分な意思と偉力」の欠如があらわれているとみるべき
である。
4 情報公開ランキング全国最下位
こうした財政運営の厳しい時期における大型の公共事業の展開は、情報公開と住民参加という最低限の民
主主義の基礎のうえに進められる必要があることは当然である。空港建設の是非を問う住民投票を公約しな
がら行わなかったその姿勢、全国オンブズマン運動による全国都道府県情報公開ランキング最下位に位置す
る情報公開度の低さは、土地収用法第20条2号の要件をクリアする最低限の条件すら満たしていないというべ
きである。
5 石川県政における「充分な意思と能中なさの実例
(1)防災船「希望」の廃船問題
1996年2月県議会で原告服部寛一郎氏は、地震対策時の海上支援は国の責務であり、防災支援とカーフェ
リーの二足の草鞋は履けない、維持費7億円は高すぎると反対討論をした。2006年度2月定例議会で石川知
事は廃船提案をしたが、防災船としての出動は8年間に1回だけであり、エンジントラブルは17回も起こして信用
度を低めてきた。
またカーフェリーとしての乗船率は8年間で35%を超えることはなく、購入費22億円を含め累計投資額はなん
と106億円余。解体費8億8700万円を予算計上することになった。
県がこの「希望」を購入(もと運輸省の実験船)したのは、同時期の静岡空港設置許可問題との裏取引があっ
たのではないかと風聞が立つほどに購入過程は不透明であった。購入から廃船に至る一連の経過はこれか
らの静岡空港の未来を暗示するものとして、厳しくその実情を認識する必要がある。
(2)森町住宅団地開発土地問題
静岡県は1991年2月、森町からの住宅団地開発要望に基づき、民間から20.3ヘクタールの土地を5億7800
万円で購入し、測量など合わせて6億4000万円を支出した。ところが「岩盤が固い」などとして未造成のまま手
つかずになっていた。これを2006年度に100分の1の640万円で森町に売却するという方針が示された。6億40
00万円と 640万円との差額はいったい誰の責任で補てんされるのであろうか。誰も責任をとらない行政体質が
ここに如実に現れている。
将来、確実に予想される静岡空港の赤字に対する責任は誰がとるのであろうか。
6 空港特別会計一国の補助金の実体
(1)国の地方空港政策
国土交通省交通政策航空分科会は、2002年12月と2003年4月に空港整備のありかたについての考えを出
したが、その基本は離島を除いて地方空港の建設は抑制するということにあり、その根拠は、空港という社会
インフラは1時間以内に空港を利用できる国民は75%、2時間とすれば97%、既に空港整備は十分であり、今
後は羽田、関西、成田空港の整備に財政の集中投下をするというものである。
また、その時点で事業が始まっていた静岡空港と神戸空港については「現在継続中の事業については、事
業の継続又は中止を判断すべきである」とした。これを受け、静岡県は事業開始10年目を迎える静岡空港に
ついて2003年に事業評価委員会を設置する。委員会は審査の結果、土地収用よりも円満解決のための話し
合いの条件をつけて、継続を決定する。国はこの結果を受けて事業再評価委員会を組織し、結局2004年3月
に継続を決定したのである。
(2)特別会計の見直し
空港特別会計の2006年度予算額は5726億円、支出の主なものは空港整備事業に3721億円で、その中に
地方空港分416億円が含まれている。1996年度には1360億円あったこの予算は徹底的な見直しをされている。
この見直しは骨抜きとの報道もあるが、第1種、第2種、第3種空港それぞれの収支実態の公表と空港特別会
計の透明化がますます求められており、この意味において再点検がなされるならば改めて静岡空港への支出
は疑問視されることになるはずである。
静岡空港の本体工事の今年度予算額は48億円余だが、3月末の箇所付けが30億円にとどまったという実態
を見るならば、静岡県が考えるほど国は静岡空港の優先的扱いを行っているわけでないことがわかる。
(3)補助金の流れと開港スケジュール
この間の空港特別会計からの補助金支出は静岡県の要求をそのまま受け入れていない。石川知事は「200
9年3月に99.9%開港は確定」と言っているが、なぜ100%と言えないのか。収用委員会における却下の可能性、
事業認定取消訴訟における敗訴の可能性、国の予算措置の削減がその背景にある。特に国の予算措置は今
後の開港スケジュールに大きく影響する。半年間の飛行試験があるため、2008年10月までに工事が完了しな
ければならない。つまり2006年から3年間で残工事予算141億円を消化しなければならないのである。そうする
と3年間の平均予算は少なくも3分の1の47億円の確保が必要となる(今年度当初で48億円を計上したのも根
拠ある数字であることがわかる)
ところが、箇所付けで30億円にとどまったため07、08年の2年間で111億円の予算確保・消化が必要となるが、
03年以降の予算執行状況を見れば、それは容易ではなく、09年開港は極めて困難と言わざるを得ない。県は、
国の予算の立て替え払いや「工事国庫債務負担行為による継続的執行」など必死の画策を行っているが、2
度の需要予測の修正、2度の開港予定日の変更をしてきた静岡県に事業認定要件である「充分な意思と能力」
があろうはずもなく、このような事業に土地収用法の事業認定を下ろしたこと自体が間違いだったことは明白で
ある。
7 開港後の収支バランス
(1)静岡空港は佐賀型
知事は、静岡空港を仙台型と規定しているが、搭乗率保証や着陸料の低額化こそ、採算にメドがつかなけれ
ば血税を投入することを念頭に置いていることの証左であり(現に日本航空との間に搭乗率保証を示す合意文
書まで作成している)、このことが採算の取れない場合に官が支援を約束する佐賀型、能登型といわれるゆえ
んである。
(2)収支バランスのあやうさ
県の収支の概算によると、国内便の収入は、着陸料4億9100万円、地代1400万円、航空機燃料税2100万円、
合計5億2600万円で、支出は滑走路の管理費1億4800万円、照明施設保守管理経費等8500万円など5億200
0万円である。この収入を得るには搭乗率60%で106万人の利用者が前提とのことである。
知事は着陸料の低額化を言明しているから、佐賀空港のそれの3分の1を想定していると思われるが、もしそ
うなら4億9100万円の半分の収入となろう。また、能登空港では1日2便で70%を超えない場合に2億円の搭乗
率保証がなされている。静岡県の14便の場合を能登の例で単純計算すれば14億円の保証額ということになろ
う。さらに、佐賀でも能登でも空港利用者に助成金を支給している(佐賀の場合宿泊利用者に一人3000円)。
同様に静岡でも助成金が支給されるとなると、106万人中仮に宿泊利用者を25万人として、3000円×25万=7
億5000万円余となる。
更に佐賀空港では朝便が必要として駐機料、またパイロット等の宿泊料まで航空会社に助成している。県内
修学旅行への助成金もある。こうしたことが静岡空港に現実化するとき、最悪で20億円を超える財政保証が毎
年必要になる。こうした想定もできないような静岡県に事業遂行の「充分な意思と能力」があると認定できるの
であろうか。
(3)国際線の誇大広告
国際線による着陸料収入は1億4400万円とされるが、その算定根拠は9路線25便である。しかしそういう国
際線がいつどこで政府間レベルでの合意事項になったのであろうか。寡聞にして知らない。2006年2月定例議
会でも、06年1月から3月までテレビ静岡を通して流された「しずおか空港バニラ味」というCM番組が、開港と同
時に国際線8便飛行すると宣伝したことに対し「誇大広告ではないか」との指摘があり、空港部長はその誤りを
認めている。このような静岡県の姿勢に疑問を持たない県民はどれくらいいるだろうか。なお国際線の路線確
保の困難さは3,28付け毎日新聞において詳しく論じられている。
8 おわりに
2005年6月に静岡県包括外部監査人によって「2004年度包括外部監査結果」が提出された。この中で静岡
空港の「契約金額10億円を超える大規模なものは、いずれも大手ゼネコンの鹿島と大成建設を中心とする共
同企業体が落札している」として談合の疑いありと指摘されている。官製談合が表面化し、鹿島、大成は逮捕
者を出すに至っている事実を考えるとき、こうした監査人の指摘を受けても何らの事実関係の把握に努めよう
としない静岡県に事業遂行に必要な「意思と能力」があるとはとても考えられない。
また、JR東海によって何度となく拒否されている新幹線新駅は設置に総工費400億円とも言われるが、その
是非について何の議論もせず設置を国に要請していることも問題である。
■第5準備書面 2006,6,30
当準備書面は、第4準備書面において、起業者には本件空港整備事業を遂行する「充分な意思と能力」が
欠けている事実を、起業者の財政力の面から論証したのに引き続き、同じく「充分な意思と態力」の不足を本
件事業の施行状況から見た起業者の行政能力(実際的能力)の面から明らかにするとともに、法20条2号要
件該当認定の違法性を主張するものである。
第1 事業自体及び事業施行過程における民主性の欠如
1 “迷惑施設”の建設に係る住民参加なき立地選定
(第1準備書面 第1の2を参照)
2 時代的・社会的要請である環境保全の重視に逆行する事業決定
(第2及び第6準備書面を参照)
3 「用地取得の確実性」を無視した強引な空港設置許可申請
(第1準備書面 第1の3及び4、第6準備書面の第2を参照)
4 用地取得進展の見込みのない状況下での“見切り発車”的着工
起業者は1998年11月、用地取得交渉がまったく膠着し今後とも進展の見込みがない状況のもとで、空港本
体部の造成工事を開始した。この時点において起業者は『確約書』の履践を完全に放棄したものと看なすべ
きである。その内心とは裏腹に、起業者がその後も話し合いによる解決を口にし続けたことは、着工を地権者
らに対する洞喝の道具にしたにひとしい。起業者の非民主的な行動様式をよく示している。
5 円卓会議開催や公開討論会の提案の全面的拒否
空路直下に当たる吉田町の住民らが、1995年3月、「用地決定を一時凍結して円卓会議を開催することとし、
その討議に基づく合理的な結論には従う」旨を明らかにして起業者に申し入れたが、起業者はにべもなく拒
否した。また、住民投票条例案否決後、住民投票実現の努力を一切放棄したことに対して、2004年、「空港は
いらない静岡県民の会」が公開討論会を提案したのに対しても、起業者は一顧も与えようとしなかった。
このほか、県下の民間研究機関や地方自治体からも公開討論の提案を受けていながら、一度も応じようとし
なかった。いわゆる逃げまくる姿勢に終始したのである。
6 空疎で一方的・独善的な広報宣伝
起業者は、多額の経費をかけて、本件空港の必要性や有用性の広報宣伝を繰り返してきたが、県民に対し
て地方空港一般の実態や本件空港の正確な実像を伝えるものではない。例えば国際化時代に当県にも空の
玄関が必要で、これにより人・物の国際交流が促進されるように宣伝するが、それを裏付け、県内に空港がな
ければそれが阻害されるような状況を示す客観的な根拠は示していない。それどころか高速交通網に恵まれ、
隣接地域に複数の大規模空港まで擁する当県に地方空港が必要かという多数県民の疑問に、的確に答える
ような説明やデータの提示は怠ったままである。無責任である。
税金を使って建設する事業に、税金を使って行う広報は、県民に正確な情報を提供するものでなくてはなら
ない。空疎で、偏った広報宣伝を事とする起業者に、県民に責任を負った事業遂行の「意思と偉力」を認める
ことはできない。(第4準備書面第2、7の(3)参照)
7 実現性がないのに振り撒き続ける新幹線新駅構想
(第4準備書面「おわりに」参照)
8 不当な事業再評価に基づく事業継続の決定
起業者及び国土交通省は、2003年から翌年にかけて、着手後10年を経過した公共事業に対する事業再
評価制度に基づきそれぞれ再評価を行ったが、いずれにおいても重要な評価項目である「事業進展の見込
み」について個人所有及び共有の地権者らとの交渉がまったく進展せず、将来もその膠着状態が続くことが
確実な状況を無視して、何ら具体的な理由を示すことなく安易に「進展の見込み有り」と判断して事業継続を
決定した。
事業再評価は事業施行者や事業許可者が行うのでは信頼性は乏しい。お座なりな「お手盛り」審議によっ
て行ったこの決定は、甚だしく事業再評価制度の趣旨に背く不当なものである。ちなみに着手後10年を経過
しても完成しなかったような地方空港は静岡以外にない。
第2 効率的な事業遂行に必要な精緻な計画性の欠如
地方公共団体にはあまねく効率的な行政事務の執行が求められ(地方自治法1条)、健全な財政運営の責
務がある(地方財政法2条1項)
1 再度の大幅な下方修正を経てなお著しく過大な旅客需要予測
(第2準備書面参照‥今日の経済社会における公共事業の執行者に求められる良質な経済感覚が欠如し
ている。)
2 未曾有の巨額建設費を必要とする不合理な立地選定
(第1準備書面 第1の1・2参照)…各地の地方空港はおおむね300〜500億円程度で建設されるものが多い。
地域性が類似する岡山空港でも約400億円。静岡空港が、1900億円という桁はずれの建設費を必要とする
基本的要因は、馬の背状の尾根と深い谷を均して用地を造成しなければならない地形にある。このため切り土・
盛り土量は2400万立方メートルという膨大なものである。
起業者は、他にさらに低額の建設費で済む穣数の候補地があったにもかかわらず、県民が納得できる理由
も示さずに現建設地を選定し、県議会も無批判にこれを容認した。
このように甚だしい無理を冒して建設しても、この空港には全国の国内便の利用者の82%を占めるといわ
れる東京・大阪と結ぶ”ドル箱”路線がない(離島を除けば国内にそのような空港はほかにない)。無謀もここ
に極まるというべきである。
3 工事完了期日の再三の延期
起業者は、空港設置許可申請にあたって、工事完了期日を2003年7月とし、これに基づく許可を得たが、そ
の後大幅な期日の延期を申請し、それでも足りず再度の延期許可を求め、ついに当初の完了期日に遅れるこ
と5年4か月という甚だしい事業の遅延を招いている。事業費の大半が起債であることを考えれば、大幅な完
工の遅延が資金運用に及ぼす悪影響は、民間企業の経営においてはとうてい許されないところである。再三
の延期の主因が本件事業のずさんな計画にあることは疑いない。
4 新幹線トンネル防護工事の必要に伴う工事費の大幅な膨張
1998年9月、県議会において起業者は上記工事の必要経費を約25億円と説明したが、これは従来の事業
費に含まれていないものであった。さらに2000年起業者及びJR東海が締結した協定では100億円以上にまで
膨張していた。このような異常な膨張にもかかわらず、当初の事業費総額には影響しないとされ、またこれに
ついて合理的な説明も行われていない。本件計画は極めてずさんであり、かつその予算は著しく透明性を欠
くと言わざるを得ない。
5 疑似民営化の無計画性及び虚妄性
(第4準備書面 第2の7参照)…起業者は最近企業の社名や代表者等を決定したものの、運営会社が委託
を受け運営に当たる業務の範囲は明確でなく、企画書すら存在しない状況である。
効率化の名目をもって打ち出された構想だが、中部国際空港のように最初から民間企業の形態をとり、建設
費の効率化まで期するのでなければ本来民営化の効果は乏しい。ところがこの企業の経営については搭乗
率保証のような税金による負担が付随し、業務内容の不明確さと相まって効率化にどれほど寄与するものか
不透明である。所詮、事業の企画立案においては考慮されていなかったものが、ただ思いつき的に打ち出され
たものにすぎず、当該企業の業務内容、独立採算の範囲等が明確にされない限り、擬似的な民営化であり虚
妄の効率化であるといわざるをえまい。
第3 政治道義上許されず法的理念にも背く横暴で権力的な事業推進
1 住民投票を巡る県民に対する信義に背く言動
(第1準備書面 第1の5参照)…知事選を前にしての起業者の「住民投票賛成」の態度表明は、有権者に対
する公約である。しかもこれは抽象的な施政方針の類ではなく、空港建設という具体的な行政施策の実施に
係るものである。しかるに起業者は「公約ではない」と強弁して責任を回避した。政治道義上許すことのできな
い県民に対する背信行為である。
2 反古にされた知事『確約書』…法的義務に反するとともに政治道義上も許し難い。
3 地権者らに対する誠意のない交渉
起業者は、用地提供を肯んじない地権者らと接触や交渉を重ねたと称するが、誠意のない態度に反発され
て、実体のある交渉は無論、意義のある接触の事実も皆無なのが実情である。固有の地権者ら4名は起業
者の申し入れに対し、2003年8月、「土地収用を申請しないこと、建設工事を(一時)中止すること、”ボタンの
掛け違い”を認めること」という3条件を提示して交渉に応じることを回答したが、誠意のない起業者は言を左
右にして応じなかった。知事『確約書』で述べた「誠心誠意の交渉」など薬にしたくてもなかったのである。
4 必要性がなく民意と離反した事業の推進
本件空港に関する各新聞社及びNHKの世論調査において、過半数の回答者が建設の必要性を認めていな
い。また県内の一大学における学生の意見調査でも回答者の64%が建設に反対している。
一方、マスコミにおいても中央各紙がそれぞれ社説において、本件空港の必要性を否定ないし抜本的な見
直しを主張している。そのほか同様趣旨の論説等は極めて多数にのぼる。そればかりではなく空港を使用す
る当事者である航空業界の労使の団体すら、本件空港の建設を厳しく批判し、あるいはこれに反対しているの
である。
5 「民主的にして効率的な行政」の理念のじゅうりん
地方自治行政の法的理念をもじゅうりんしてきた事業遂行をさらに後押しする「意思と能力」の認定を、国は
決して行うべきではない。
第4 法20条2号要件該当認定の違法性
1 既成事実を積み上げることによって本件事業を強引に推進してきた起業者の行政運営には以上の多くの
事実が示すように不明朗な欺瞞性がつきまとっている。こうした欺瞞性の根底には全国でも最低ランクの情
報公開度が示すような、県政の不合理で権力的・独善的な体質が潜んでいる。
2 いやしくも、強制力をもって国民の権利を剥奪してまでの事業遂行を可能にするためには当該事業遂行に
関する起業者の「充分な意思と能力」の具有については、起業者と権利者らのいずれにも偏ることのない公正
にして中立の立場から、厳正な基準をもって判断されるべきである。事業認定に耐える起業者の「意思と能力」
としては、良質な社会経済的視野、確実な行政需要の存在、政策順位の妥当性等を背景とした、事業の計画
力、用地提供者に対する交渉力、県民有権者に対する説得力などを含む優れた行政態力(実際的能力)及び
充実した健全な財政力が必要と考えるべきである。事業遂行に行き詰まり、忌むべき強制力の行使まで企ま
なければならなくなったこと自体が、権力的で独善的な起業者の行政能力の限界を実証しているのである。
3 事業認定庁及び国は、皮相的で形式的な視点と基準に基づいて法20条2号要件該当を認定している。その
判断は、合理的で適正な裁量の範囲を逸脱しており違法である。
■第6準備書面 2006、6、30
第1 本件事業認定処分は生物多様性条約に違反する違法なものである
1 生物多様性の重要性と本条約
(1)「生物多様性条約」は1993年12月に発効。2002年2月現在182カ国が加盟。日本は1993年5月に批准した。
(2)1900年代から世界中で野生生物の種や生態系が加速度的に消滅している。生態系とは、ある地域の地形、
地質、気候などの環境とそこに棲む生物とを併せた全体(あるがままの自然)のことである。
種の消滅は生態系自体を破漬する。森林の喪失は水や空気に変動を与え、生物の多様性の喪失に直結す
る。金銭には見積もることのできない精神的な安らぎも自然の恩恵の一つである。
2 生物多様性条約の枠組み
受容された条約の国内における序列は、通説では憲法に優先しないが、個々の法律には優先するとされる。
したがって、種の保存法や自然公園法を解釈する際にその基準を条約に求めることができるほか、不十分な
法律については本条約によってその内容・解釈が補完されること、及び条約の条文規定が明確であることによ
って直接適用力を肯定できる場合には、本条約の規定を適用して国の義務を確定することができる。
3 生物多様性条約が直接適用されることによる国家義務
国が積極的に生物多様性を破壊するような場合には、国民が裁判所に救済を求めることは可能でなければ
ならない。また環境影響評価が条約に即した十分な評価がなされていない場合にその違法性(条約14条)を
主張して裁判所に救済を求めることも可能でならなければならない。
この条約は、例えば8条(生息域内保全)、9条(生息域外保全)において極めて具体的な施策を「実現可能な
限り」行うよう国際法的に義務づけている上、締約国が国内において「何もしないこと」あるいは「積極的に生物
多様性を破壊すること」を禁止ししている。
このような義務の存在は、条約26条で「条約を実施するためにとった措置及びこの条約の目的を達成する上
での該当措置の効果に関する報告者を締約国会議に提出」しなければならないなどの規定によっても根拠づ
けられる。
4 同条約が他の法令の解釈基準ないし補完的役割を果たすこと
(1)種の保存法(第3準備書面参照)−種の保存は、種の数だけに着目して保全を考えるのでなく、生息地の
保全、生息地破壊禁止という視点から解釈しなければならない。
(2)環境影響評価一条約14条1項は具体的な環境影響評価に対するなんらかの措置をとる義務をも課してい
ると解釈することも可能である。本件では被告から環境影響評価書が提出されているが、漠然と一般的な解説
程度の文が記載されているだけで、生息地の保全を含めた生物多様性保全について全く言及されていない。
例えばタコノアシの移植、オオタカの営巣木の伐採など、生物多様性条約に基づく保全義務に違反している可
能性が高い。
5 静岡空港建設と生物多様性条約違反
@空港建設予定地の自然は極めて豊かである。判明しているだけでもナギラン、タコノアシ、シロバナクサナギ
オゴケ、スズカカンアオイ、クマガイソウなどの貴重種を含む多数の植物種(実際には評価書でも種数は不明
確であり、群落の状況も不明である)の他、ニホンリス、ムササビ、ノウサギ、ハクビシン、イタチ、タヌキなどの
ほ乳類(但し絶滅のおそれが高い多数のコウモリ類については全く不明)、カイツブリ、オシドリなどの水鳥、オ
オタカ、ハイタカ、チョウゲンボウなどの猛禽類など、多様な動植物の宝庫となっている。本州でも極めて自然度
の高さが残されている場所といわざるを得ない。
本来であれば静岡県、日本政府はその国際義務として、空港建設予定地周辺の地域の生物多様性を保全
するべきなのである。
Aこのような豊かな自然があるにもかかわらず、静岡県の環境影響評価調査は極めてずさんである。例えばコ
ウモリはそれぞれの環境に特化したスペシャリストであって、多くの種が生息しているということはそれだけ自然
が多様であることを意味している。
B自然環境の調査のためには、長期間にわたり継続的に行わなければならない。なぜなら生物多様性は、種、
生態系などを動的なものと考えるからである。植物の四季による出現、動物の移動・繁殖パターンなどとともに、
環境の変化によって生物相は変化していく。しかるに県の評価書に現れている調査は、条約14条の要求する
「悪影響の最小化」のための保全策が満たされないことを意味していると言わざるをえない。
■空港施設自体が広大な土地をコンクリートで覆い、そこでの自然を確実に消滅させる。しかもこの場所は、谷
地、斜面地、丘地などを含む極めて複雑な地形であり、その生態系は多様であった。また、巨大なコンクリート
で覆われた地域が出現すると、地下水の変動、それによる河川生態系への影響など計り知れない生物多様性
の破壊が明らかである。なお県は、これらの変化と影響については全く調査を行っていない。さらに航空機の離
発着による水鳥、猛禽類への影響は直接的である。仮に空港近辺に営巣可能な場所があったとしても、その繁
殖、採餌などに大きな影響が発生する。
以上のように調査もなく、保全措置もない本件空港建設は、生物多様性を破壊する以外の何ものでもない。
第2 本件事業認定処分は取り消すべきである
(飛行場の建設という行政行為が、巨大な財政負担、広範囲の土地の使用、環境に与える影響などによって計
り知れない負荷を関係者に負わせる以上、その行政手続きは適法かつ適正に履践されなければならない。とり
わけ、航空法第39条1項5号「用地取得の確実性」が重視されなければならない、として『確約書』問題について
重ねて主張している。)
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